公演特別コラム

 山下康介コンサートによせて Text by 腹巻猫(劇伴倶楽部)

 

 山下康介さんと初めてお会いしたのは『爆竜戦隊アバレンジャー』(2003)の音楽録音の現場だった。山下さんは羽田健太郎率いる作曲家チーム「ヘルシーウィングス」に参加していたのだ。当時、山下さんはまだ20代! 新進気鋭の作曲家という風情だった(とはいえ、大林映画等ですでに映像音楽の作曲家として実績があった)。

 

以来、『魔法戦隊マジレンジャー』『海賊戦隊ゴーカイジャー』、アニメ『ガラスの艦隊』『デジモン クロスウォーズ』などのサウンドトラック・アルバムの制作で山下さんとご一緒する機会があった。また、アニメ音楽やゲーム音楽のコンサートに行くとアレンジが山下さんということもたびたびあった。山下さんの音楽の魅力は圧倒的なオーケストレーションのうまさ。そして、本人の人柄のようにやさしく、親しみやすいメロディ。そのサウンドに魅せられて作品を追いかけ、サントラを聴いてきた。

そんな山下さんの個展コンサートが開催される。映画・ドラマ・アニメ・ゲームの音楽が好きな方ならぜひ聴いてほしいプログラムだ。

以下、私が知っている山下康介さんの仕事とエピソードを紹介しつつ、本コンサートの聴きどころをご案内したい。

 

※本文ではコンサートで演奏されない曲についても触れています。

 

●山下康介の音楽家人生を変えた3

山下康介は伝説的なエピソードを持っている人である。中でも、すぎやまこういち、羽田健太郎、大林宣彦の3人との関わりは、山下康介の音楽人生を語る上で欠かせない。

 

幼い頃からピアノを習っていた山下康介は中学生になって吹奏楽部に参加。そこでアンサンブルの楽しさを知り、独学で曲を作り始めた。高校に進学し、将来の進路を考えた山下は音楽の道を志す。自分の書いたものの評価が知りたいと思い、自作の曲に手紙を添えて『ドラゴンクエスト』の作曲家・すぎやまこういちの事務所に送ってみた。当時、山下はすぎやまとは一面識もなかったが、数日後すぎやまから直々に電話がかかってきた。すぎやまは山下の曲に対する好意的な批評を伝えるとともに「きちんと勉強して楽譜が書けるようになりなさい」と励ましてくれたという。

 

そこから山下は猛勉強して東京音楽大学に進学。東京音大で師事したのが羽田健太郎、ハネケンである。山下のスコアは在学中から評価が高く、海外から講師を招いて指導してもらっていたとき、ある外国人講師が山下のスコアを見て「Excellent!」と叫んだという逸話がある。羽田も山下の才能を認め、自分のコンサートの1曲のアレンジをまかせた。これが山下のプロ音楽家デビューになった。羽田はのちに『爆竜戦隊アバレンジャー』の音楽担当を引き受けたとき、共同で作編曲にあたる作曲家チームの一員に山下を加える。この経験も山下が大きく飛躍するきっかけになった。

 

山下にとって運命的な出逢いとなったのが大林宣彦監督との仕事だった。1996年、テレビ映画『三毛猫ホームズの推理』(のちに劇場公開された)を作るにあたって、大林組の新しい音楽メンバーに選ばれたのが山下だったのだ。大林は山下を「天才少年」と呼んで可愛がり、遺作となった『海辺の映画館キネマの玉手箱』(2020)までともに仕事をした。多くの作品で山下の名は「學草太郎」と並んでクレジットされている。學草太郎は大林監督が作曲をするときのペンネーム。2人は二人三脚のようにコンビで映画音楽を作っていった。今回のコンサートに大林映画の曲は含まれていないが、いつか、山下康介の映画音楽を集めたコンサートを聴いてみたいと思う。

 

●出世作となった「信長の野望」

コーエーのゲーム「信長の野望」シリーズは山下康介の出世作と呼べる作品だ。山下が最初に手がけた「信長の野望・将星録」は1996年発売。プロとしてのキャリアの最初期にあたる仕事である。それまでシリーズの音楽を担当していた菅野よう子のあとを継いでの参加だった。菅野よう子の音楽が好評だっただけに重責を担う形になったが、山下はみごとに期待にこたえ、以降、「烈風伝」(1998)、「嵐世記」(2000)、「蒼天録」(2002)、「天下創世」(2003)、「革新」(2005)、「天道」(2009)と合計7作を担当。2014年に横浜で開催された「信長の野望」30周年記念コンサートでは山下が編曲と指揮を務めた(演奏は神奈川フィルハーモニー管弦楽団)。山下にとってゲーム音楽は、音楽家になるきっかけを与えてくれた恩人すぎやまこういちの想いを継ぐ仕事なのではないだろうか。

 

 

 

●特撮音楽での飛躍

 

山下が『爆竜戦隊アバレンジャー』の2年後に手がけたのが『魔法戦隊マジレンジャー』(2005)。初めて単独で担当する特撮ドラマだった。その音楽を聴いたとき、「これはすごいなぁ」と思ったものだ。映画「ハリー・ポッター」シリーズのジョン・ウィリアムズの音楽にも負けない、華麗でファンタジックな音楽だったのである。当時、山下は30代になったばかり。大編成のオーケストラを使った音楽を一度に6080曲も書かなければいけないスーパー戦隊シリーズでは、実績のある中堅~ベテランクラスの作曲家が選ばれるのが通例だったが、山下が最年少記録を打ち立てた。

 

山下がふたたびスーパー戦隊シリーズの音楽を手がけたのが今回演奏される『海賊戦隊ゴーカイジャー』(2011)。スーパー戦隊シリーズ第35作記念作品であり、劇中でゴーカイジャーが過去のスーパー戦隊の姿に変身して戦う趣向が盛り込まれていた。そこで山下は海賊戦隊のテーマとは別に、過去のスーパー戦隊を象徴する「レジェンド戦隊のテーマ」を作曲。実に35作分のヒーローの歴史が音楽に凝縮されているのである。もう1つの柱となる海賊戦隊のテーマでは特徴的なリズムを採り入れて海賊の力強さ、豪快さを表現した。

 

その後、山下は2012年に映画『海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン THE MOVIE』と『宇宙刑事ギャバン THE MOVIE』で特撮ヒーロー音楽のレジェンド・渡辺宙明と連名で音楽を担当する記念碑的な仕事を経験。『手裏剣戦隊ニンニンジャー』(2015)、『宇宙戦隊キュウレンジャー』(2017)とコンスタントにスーパー戦隊シリーズの音楽を担当することになる。

 

いっぽう東映のもう一つの代表的な特撮ドラマである仮面ライダーシリーズには『仮面ライダー鎧武/ガイム』(2013)で初参加。戦国武将をモチーフとしたヒーローはゲーム『信長の野望』とも通じるところがあるのが興味深い。次に担当した『仮面ライダーセイバー』(2020)は本の中の世界が戦いの舞台になる異色の設定。山下は「異次元的な民族調のサウンド」で特徴を出そうとしたと語る。今回のコンサートで演奏される「Timeless Story」はもともとメインテーマとして作られたメロディにあとから歌詞を付けた挿入歌。物語のクライマックスを大いに盛り上げた。オリジナル歌手の歌人三昧サマディの歌で聴けるのがファンにはたまらない。

 

 

 

●その名を全国に広めたドラマ音楽

 

2005年放送の『花より男子』は人気少女漫画原作のドラマ。山下の名を一般のドラマファンにも認知させることになったヒット作だ。井上真央が逆境に負けない勝気なヒロインを演じ、松本潤、小栗旬といった人気若手俳優が共演して話題を集めた。メインテーマがすばらしい。華やかでゴージャスでロマンティック。往年のミュージカル映画のようなワクワク感にあふれた曲調で魅了する。本作はパート2、映画版まで作られる人気作になり、そのすべてを山下の音楽が彩った。コンサートで盛り上がること間違いなしの曲である。

 

『花より男子』があまりによかったためか、山下の仕事に少女漫画や少女が活躍する漫画原作のドラマが多くなった。『鉄板少女アカネ!!(2006)、『有閑倶楽部』(2007)、『ヤマトナデシコ七変化』(2010)などなど。どれも山下の魅力的なメロディとオーケストレーションの冴えが堪能できる作品で大いに楽しませてもらった。

 

連続テレビ小説『瞳』(2008)NHKで放送された、いわゆる「朝ドラ」の1作。近年の朝ドラはオープニングに歌が流れることが多いが、本作では歌のないインストゥルメンタルがオープニングを飾る。昭和時代の朝ドラの伝統が受け継がれているようでうれしくなる曲だ。榮倉奈々演じるヒロインはヒップホップダンサーをめざしてがんばっているが、ひょんなことから3人の里子の親代わりになって奮闘することになる。山下はメインテーマのメロディを演奏する楽器にトロンボーンを選んだ。トロンボーンのスライドの動きがダンスにも通じるし、温かさや力強さの面からもマッチしていると考えたそうだ。朝のイメージにどうかという意見もあったが、最終的にスタッフに中川英二郎の演奏を生で聴いてもらい、山下の想いが実現した。コンサートでは、オリジナルプレーヤーである中川英二郎の演奏で聴くことができる。

 

●アニメ音楽の収穫

 

テレビアニメ『Xenosaga THE ANIMATION(2005)は山下康介のアニメ音楽デビュー作である。原作はナムコが発売したRPGXenosaga(ゼノサーガ)」シリーズ。40世紀を舞台にした宇宙SFだ。山下は音楽を担当するにあたり本格的にゲームに目を通し、SFアニメの名作『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』などに通じるものを感じたという。宇宙SFにふさわしいスケールの大きな音楽が魅力だが、メロディにもこだわった。本作ではオープニングテーマとエンディングテーマも山下が手がけている。オープニングは壮大なストーリーと劇中に登場する民族・宗教のイメージを盛り込んだ曲に、エンディングテーマは生命や精神をイメージし、シンプルな中に魂を感じさせる曲に仕上げた。特に英語詞で歌われるエンディングテーマ「in this serenity」(歌・五條真由美)は、山下のメロディメーカーとしての才能を感じさせるリリカルな名曲である。

 

Xenosaga THE ANIMATION』のあと、山下は同じく宇宙を舞台にしたSFアニメ『ガラスの艦隊』の音楽を担当。クラシック音楽を意識し、本物のパイプオルガンまで使った迫力のオーケストラサウンドが映像に華を添えた。さらに2009年には映画『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』に参加。旧作の音楽を担当した宮川泰、羽田健太郎が亡くなったあとの作品で、劇中には2人の楽曲の隙間を埋めるように山下の新曲が流れる。恩師ハネケンへの恩返しとも呼べる作品である。

 

2011年の『ちはやふる』は少女漫画原作のテレビアニメ。競技カルタに打ち込む少年少女の青春を描く作品だ。競技カルタは将棋や囲碁のように11で対戦する。派手なアクションはないが、知略を尽くした静かな心理戦が展開する。その緊張感を山下は小編成のオーケストラを使った繊細なサウンドで表現した。雄大なSFものやヒーローものの音楽とは対局的なアプローチで、これがみごとに効果を上げていた。まるで颯爽とした一陣の風のような音楽。人間ドラマからSFまで、さまざまなジャンルの作品を手がけてきた山下だからこそ作れた音楽だ。近年のアニメ音楽の収穫のひとつであり、それが生演奏で聴けるのが楽しみでたまらない。『ちはやふる』は多くのファンを得て、2013年に第2期が、2019年に第3期が放送された。もちろん、すべてのシリーズで山下康介が音楽を担当している。

 

●映像音楽への想いを受け継ぐ

こうして山下康介の仕事をふり返ってみると、今回のコンサートでは山下の音楽人生の中でも重要なポイントとなる作品が選ばれていることがわかる。山下康介の作曲家としての成長とキャリアを一望できるプログラムであり、映像音楽史を語る上でも聴き逃せない作品ばかり。山下康介の音楽には日本の映像音楽を築いてきた作曲家やミュージシャンの想いが受け継がれているのだ。コンサートという一期一会の機会にその想いを受け止め、未来につないでいきたい。

 

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Text by 腹巻猫(劇伴倶楽部)

音楽ライター。サウンドトラック・アルバムの構成・解説、映像音楽関連の執筆を中心に活動。著書に『スーパーアニソン作曲家 渡辺宙明大全』『日本懐かしアニソン大全』(辰巳出版)。